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千葉地方裁判所 昭和51年(ワ)683号 判決

原告

君島繁

被告

有限会社若松運輸

主文

一  被告は原告に対し金一二六万七九〇七円および内金一一二万七九〇七円に対する昭和五〇年一〇月一七日以降、内金一四万円に対する昭和五一年一〇月二一日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の、各負担とする。

四  第一項に限り仮に執行できる。

事実

(申立)

第一原告

一  被告は原告に対し金三九八万五五七二円および内金三七三万五五七二円に対する昭和五〇年一〇月一七日以降、内金二五万円に対する昭和五一年一〇月一二日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二被告

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

第一請求原因

一  事故の発生

原告運転の大型貨物自動車(茨一せ八六二〇号―原告車という)と被告の従業員の訴外鈴木義隆がその職務として運転していた被告の保有する大型貨物自動車(千葉一一か二八〇四号―以下被告車という)とが、昭和五〇年一〇月一七日成田市宝田一一五〇番地先道路において衝突した。

右事故は、右鈴木の運転手としての過失により、被告車の運転席と荷台の連結部分が外れ、荷台部分が対向車線に暴走したことにより発生したものである。

二  被告の責任

被告は民法七一五条により、本件事故によつて原告の蒙つた人的・物的損害を賠償する責任がある。

三  損害

1 車両代金

本件事故により、原告所有の原告車は大破した。同様の大型車を購入するためには、少くとも金一〇〇万円を要する。

2 原告は右事故により、第八肋骨々折の傷害を受け、約三ケ月の入院および自宅での安静加療を要した。

(1) 入院諸雑費 金八五〇〇円

本件事故により、原告は昭和五〇年一〇月一七日から一一月二日までの間茨城県石岡市大字石岡字高房一九五三―一所在の根崎医院に入院して、治療を受けた。一日少くとも五〇〇円の入院諸雑費の支出をした。合計金八五〇〇円

(2) 通院交通費 金四〇六〇円

原告は退院後も、同五〇年一二月二八日まで二九回にわたり通院して治療を受けた。そのため一回金一四〇円、合計金四〇六〇円の支出をした。

3 逸失利益合計金一二二万三〇一二円

(1) 原告は、自己所有の大型貨物自動車を持込み、訴外石岡砕石工業株式会社に専属して、土砂等の建設資材を運搬し、出来高払いで賃金を得ていた。その昭和四九年八月から翌五〇年九月までの一ケ月の平均出来高賃金は金一八万五七二四円である。その燃費等必要経費一ケ月平均金三万七八五八円を控除すると一ケ月平均金一四万七八六六円の収入があつた。

(2) しかし原告は、本件事故により前記のとおりの傷害を受け、かつ治療を要したが、一方大型貨物自動車を大破され、使用不能となつた。そのためダンプ労働者としての前記収入を得ることはできなくなつた。やむなく原告は他の就職先を探し、その後昭和五一年三月になつて訴外郡司組に「ハヅリエ」として勤め、日雇の形で収入を得ている。その賃金は平均月金六万五〇〇〇円がやつとという状態である。

(3) 以上のとおり本件事故当日より同五一年二月末までの得べかりし利益は、金六六万三〇一二円となる。

また昭和五一年三月以降は、毎月少くとも金八万円の減収となるので、同年九月末日までの逸失利益は、少くとも合計金五六万円となる。

よつて得べかりし利益の総合計は金一二二万三〇一二円となる。

4 慰藉料 金一五〇万円

前記の事故の形、傷害の程度、治療の様子、さらには大型貨物自動車を大破され、いわゆるダンプの運転手として生活できない状況に追い込まれたもので、右の苦痛を慰藉するための金額は金一五〇万円とするのが相当である。

5 弁護士費用 金二五万円

被告は原告の請求に応じないので、原告は弁護士を依頼して、本訴を提起せざるを得なかつた。右弁護士費用のうち少くとも金二五万円は、本件損害というべきである。

四  よつて原告は被告に対し、金三九八万五五七二円および内金三七三万五五七二円に対する昭和五〇年一〇月一七日以降、内金二五万円に対する本訴状送達の翌日である昭和五一年一〇月二一日以降右各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二被告の答弁

一  請求原因第一項のうち自己所有の大型貨物自動車とある点は不知、その余は認める。

二  第二項は認める。

三  第三項は、不知もしくは争う。

1 原告車は廃車寸前の状態にあつたもので、当時すでに市場価格をつけることはできないものであつた。従つて原告車の損害は認められない。

2 第三項2の傷害の程度、治療の態様は不知

3 3の逸失利益は争う。

(1) 原告は本件事故当時、道路運送法第四条等に基づく自動車運送事業の免許を受けないで、右事業を営なみ、違法な収入を得ていたものである。右違法収入を逸失利益として賠償請求することはできないものというべきである。

(2) 原告の傷害は、昭和五二年一二月末日には治ゆしたものである。従つて仮に逸失利益による損害が法律上認められるとしても、昭和五三年一月以降のそれは認められない。

(3) また原告は一四ケ月間に金二二二万八六九六円の収入を得ていたものの如くである。しかし原告主張の大型貨物自動車により運送業務を行うについては、収入額の三〇パーセント程度の燃料費その他の費用すなわち必要経費を要する筈であるから、これが経費を損益相殺すべきである。

四  第四項は争う。

(証拠)〔略〕

理由

一  原告車が原告の所有でかつ大型貨物自動車であつたことは成立に争いのない甲第一号証と原告本人尋問の結果によりこれを認めることができ、その余の請求原因第一項の事実ならびに第二項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  よつて以下原告の蒙つた損害につき判断する。

1  車両代金

証人相原武志の証言、原告本人尋問の結果によると、原告車は昭和四三年型のもので、事故当時既に通常の償却期間をとつくに経過し、中古車市場で営業用車両としてその価額を評価し、もしくはそれとして買入れたりすることすら困難であつたと認めることができる。もつとも右のような場合の車両の価格は、減価償却等の方法によるのでなく、同等の車両を中古車市場で買入れる場合の相当価格によるべきであるが、それにしても原告の価額一〇〇万円とする主張は採用できない。もつとも原告本人尋問の結果によると、原告は原告車を自分で運行の用に供し、大事に扱つてきたこと、少くとも昭和五〇年一二月に予定された車検はパスしあと一年は運行可能であつたこと、被告側で代車等の提供を申入れた事実もないこと、一方原告は新車もしくは中古車買替えのための積立て等をしていた形跡もなく、原告車の廃車とともに運送の仕事も廃さざるを得なかつたであろうことを窺うことができる。

そうすると原告車の事故当時の価額の算定は困難であるので(前記証人相原の車両価額についての証言は、そのままのものとしては採用できない)、前認定のとおり昭和五一年一一月末日までは運行可能であるが、その経過とともに無価値になるものとして、本件の場合の車両代金としては、その間の運行(逸失)利益を計算し、これを車両代金に代えるのが、損害賠償の方法として相当である(もとより以上のように解することは、弁論主義に違背しない)。よつて逸失利益の計算のところで、一括して算出するものとする。

3  治療等の費用

成立に争いのない甲第二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三号証の一、二に右本人尋問の結果によると、本件事故により原告は第八肋骨々折等の傷害を受け、茨城県石岡市所在の根崎病院において昭和五〇年一〇月一七日から一一月二日までの入院加療、昭和五〇年一一月五日から、同年一二月二八日まで二九日間の通院加療を受けたことおよび通院のためには往復一四〇円の電車賃を要したことが認められる。そして入院雑費は少くとも一日金五〇〇円は要するものと認められるので、結局一七日間で金八五〇〇円とするのが相当である。従つて通院費用と合わせた損害額は金一万二五六〇円である。

3  逸失利益

(1)  前記甲第二号証、第三号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証に右本人尋問の結果を総合すると、原告は、原告車を使用して採石場から工事現場まで採石を運搬する仕事に従事し、昭和四九年八月から翌五〇年九月まで合計金二二二万八六九六円、一ケ月平均にして金一五万九一九二円の収入を得ていたこと、その燃料費、維持費、修繕費等の必要経費として右収入の二五パーセントを要すること、原告は、前記傷害のため昭和五〇年一二月一杯の稼動は困難で、翌五一年一月から身体的には働けたが、代車もなく、採石運搬の仕事はできなかつたところ、結局同年三月からハズリ工として稼動し、日給金三三〇〇円、諸手当も入れて月収金一〇万円弱の収入を得ていること、以上のとおり認めることができ、右認定を覆えすだけの証拠はない。

そうすると、前記車両の時価評価に代える分も含め本件交通事故により、原告は昭和五〇年一〇月一七日から翌五一年二月末日まではその収入を全部失い、同年三月から同年一一月末日までハズリ工との差額一ケ月金二万円の収入を失つたものと認めるのが相当である。

〈省略〉

その合計は金七一万五三四七円である。

(2)  もつとも被告は、原告の採石運搬は道路運送法所定の許可なくして営業として行なつているもので、違法な業務から得られた収入を損害賠償の基礎として考慮することは不当である、と主張する。原告本人尋問の結果によると、原告は右許可を得ず、貨物輸送に従事し、その運賃を得ていたことが明らかで、その意味では違法に営業していたものと認められるが、前記のとおり原告は昭和四三年から右業務に従事し、かつ現実にも採石や土砂の運搬が原告のような営業許可等得ていないいわゆる車両持込みのダンプの運行によつて広く行なわれていること(当裁判所に顕著な事実)、などの事情を勘案すると被告の主張は採用の限りでない。

4  慰藉料

本件事故の態様、傷害の程度、前記入通院治療の実状、本件事故が原告の生活に与えた影響、その他原告本人尋問の結果から窺える諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて、原告の蒙つた精神的苦痛を慰藉するための金額は、金四〇万円とするのが相当である。

5  弁護士費用

原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨ならびに本件事案の態様を考えると、本訴提起に当り、訴訟追行を弁護士に委任することは当然必要であつたと認められるところ、右弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係にある分は認容額の一〇パーセント強金一四万円とするのが相当である。

6  合計

以上の損害の合計は、金一二六万七九〇七円である。

三  むすび

よつて原告の請求のうち金一二六万七九〇七円と、内金一一二万七九〇七円に対する不法行為の日である昭和五〇年一〇月一七日以降、内金一四万円については記録上本訴状送達の翌日であることの明らかな昭和五一年一〇月二一日以降右各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき、これを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、仮執行宣言につき同一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木経夫)

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